一般社団法人
量子生命科学会

学会概要
about us

役員情報、活動、過去の大会、受賞者等を掲載しています。

会長ご挨拶

一般社団法人量子生命科学会 会長 馬場嘉信
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 量子生命科学研究所長/名古屋大学教授
 量子科学の基礎方程式を確立したE. Schrödingerが、DNAの二重らせん構造さえ解明されていなかった1944年に“What Is Life? The Physical Aspect of the Living Cell”を著し、物理学と化学で生命の謎に挑むことの重要性を喝破してから約80年がたちました。

 量子科学技術は、この80年間に半導体技術の開発等を大きく加速し、インターネット、コンピュータ、スマートフォン、Internet of Things(IoT)、人工知能をはじめ、第一次量子革命と呼ばれるように我々の社会に大きな変革をもたらしてきました。さらに、21世紀になり、量子科学技術は、量子もつれや量子重ね合わせなどによる量子コンピュータや量子通信の研究開発など、さらに精緻な量子科学の発展に加えて、革新的な量子技術開発の加速により、第二次量子革命の時代に突入しています。

 生命科学は、E. Schrödingerがその重要性を予言した物理学と化学で生命の謎に挑む分子生物学や生物物理学へと発展し、多くの生命現象における謎を解明するのみならず、これら基礎研究成果に基づいた、がん診断・治療、認知症診断・治療、再生医療、感染症対策など医学分野に大きな発展をもたらしてきました。さらに、21世紀になり、量子もつれや量子重ね合わせなどが、光合成、磁気受容、遺伝子変異などの生命現象においても重要な役割を果たしていることが解明されつつあります。

 量子生命科学会は、量子科学技術と生命科学の異分野融合領域を開拓し、量子科学技術により人類究極の問い「生命とは何か?」に答えをだすことを目標として、2017年に研究会として発足し、2019年に学会として誕生しました。

 本学会の前身である研究会およびその会員を中心とした有識者会議は、2019年3月に「量子でヒトを理解する、しあわせにする。~生命科学を場とした第二次量子革命~ 量子生命科学の推進に関する提言」を発表し、量子生命科学の長期的目標、重点的に推進すべきテーマ、幅広い学術領域・産学官連携体制等についての提言を行いました。この提言は、政府の量子技術イノベーション戦略において、量子生命分野の戦略構築に重要な役割を果たし、国際研究拠点としての量子生命拠点の設置および大規模な産学連携研究開発プロジェクトとして文科省・Q-LEAP量子生命フラッグシッププログラムの開始などにつながり、量子生命科学分野の研究開発の推進に大きく貢献しています。

 さらに、本学会は、専門性の異なる多様な分野の研究者が一堂に会した大会を毎年実施しています。第1回大会は『第二次量子革命 生命の謎に挑む』をテーマとして開催し、その後も、第2回大会『量子による生命フロンティアへの挑戦』、第3回大会『量子と生命の婚活』、第4回大会『Paint It, Quantum: 量子で書き換えろ!生命現象の理解』、第5回大会『量子でLeapする生命の理解』をテーマとして、量子科学技術と生命科学という大きく異なる学問領域を融合すべく、世界最先端の研究成果を数多く発表し、量子生命科学という新しい学問領域・研究分野の創成に大きく貢献してきました。

 量子生命科学会が牽引してきた量子科学技術と生命科学の異分野融合領域の研究は、生命現象における量子効果の解明、生命における量子効果を解明するための量子コヒーレンス計測技術開発、生体ナノ量子センサや超偏極MRI/NMRなどの開発と様々な生命現象の解明および医学への応用、生命現象における量子効果の模倣によるカーボンニュートラルに向けた研究開発と新規バイオセンサの開発、量子理論に基づく認知科学研究、量子コンピュータによる脳神経科学研究等の優れた研究成果につながっています。しかし、量子科学技術により人類究極の問い「生命とは何か?」に答えをだすという目標を達成するための研究は、まだ端緒についたばかりです。

 量子生命科学会は、平野俊夫本学会初代会長が指摘されているとおり、『量子と生命という専門性の違いこそを価値と見なし、多様性を尊重しつつ調和させ、異分野融合により新しい時代を拓こうとする学会』です。量子科学技術および生命科学のみならず、物理学、化学、材料学、生物学、医学、薬学、農学、情報学、数学、工学、環境学、経済学、哲学、認知科学など、専門分野は問いません、量子生命科学に興味をもつ皆さんが本学会の仲間となり、一緒に「生命とは何か?」の答えをみつける旅に出ましょう。


役員情報

任期:令和5年度第1回定期社員総会の日(2022年5月18日)より、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時まで。
代表理事・会長 馬場嘉信(量子科学技術研究開発機構/名古屋大学)
理 事 田中成典(神戸大学)
理 事 原田慶恵(大阪大学)
監 事 近藤科江(奈良工業高等専門学校)
監 事 沈 建仁(岡山大学)
執行役 飯田琢也(大阪公立大学)
執行役 今岡達彦(量子科学技術研究開発機構)
執行役 合田圭介(東京大学)
執行役 瀬藤光利(浜松医科大学)
執行役 広井賀子(神奈川工科大学/慶應義塾大学)
執行役 水落憲和(京都大学)
執行役 村上正晃(北海道大学/量子科学技術研究開発機構/生理学研究所)
執行役 村田武士(千葉大学)

評議員

任期:令和5年度第1回定期社員総会の日(2023年5月18日)より、選任の2年後に実施される評議員選挙の終了の時まで。(五十音順)
飯田 琢也 (大阪公立大学)
五十嵐 龍治(量子科学技術研究開発機構)
泉 雄大  (量子科学技術研究開発機構)
今岡 達彦 (量子科学技術研究開発機構)
上田 泰己 (東京大学/理研)
大島 武  (量子科学技術研究開発機構)
岡野 俊行 (早稲田大学)
岡部 弘基 (東京大学)
加藤 尚志 (早稲田大学)
北川 勝浩 (大阪大学)
合田 圭介 (東京大学)
河野 秀俊 (量子科学技術研究開発機構)
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1,000円
小安 重夫 (量子科学技術研究開発機構)
近藤 科江 (奈良工業高等専門学校)
白川 昌宏 (京都大学)
沈 建仁  (岡山大学)
須原 哲也 (量子科学技術研究開発機構)
瀬藤 光利 (浜松医科大学)
高草木 洋一(量子科学技術研究開発機構)
竹内 繁樹 (京都大学)
田中 成典 (神戸大学)
玉田 太郎 (量子科学技術研究開発機構)
根来 誠  (大阪大学)
馬場 嘉信 (量子科学技術研究開発機構/名古屋大学)
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原田 慶恵 (大阪大学)
平野 俊夫 (量子科学技術研究開発機構)
広井 賀子 (神奈川工科大学/慶應義塾大学)
藤田 貴敏 (量子科学技術研究開発機構)
前田 公憲 (埼玉大学)
水落 憲和 (京都大学)
村上 正晃 (北海道大学/量研/生理研)
村田 武士 (千葉大学)
楊井 伸浩 (九州大学)
山田 真希子(量子科学技術研究開発機構)
湯川 博  (量子科学技術研究開発機構)
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1,000円

常設委員会

委員長の任期:理事・執行役の任期まで。
委員の任期:選任時の理事の任期まで。(五十音順)

学術委員会
委員長 瀬藤 光利(浜松医科大学)
委員  五十嵐龍治(量子科学技術研究開発機構)
    根来 誠 (大阪大学)
    楊井 伸浩(九州大学)
財務委員会
委員長 村上 正晃(北海道大学/量研/生理研)
委員  今岡 達彦(量子科学技術研究開発機構)
    川野 光子(量子科学技術研究開発機構)
    河野 秀俊(量子科学技術研究開発機構)
    藤巻 秀 (量子科学技術研究開発機構)
広報委員会
委員長 広井 賀子(神奈川工科大学)
委員  泉 雄大 (量子科学技術研究開発機構)
    岡部 弘基(東京大学)
    川野 光子(量子科学技術研究開発機構)
    神長 輝一(量子科学技術研究開発機構)
    田中 宏樹(北海道大学)
    藤巻 秀 (量子科学技術研究開発機構)
    星野 由美(慶應義塾大学)
人材育成委員会
委員長 村田 武士(千葉大学)
委員  五十嵐龍治(量子科学技術研究開発機構)
    藤井健太郎(量子科学技術研究開発機構)
    安井 賢司(千葉大学)
    山田真希子(量子科学技術研究開発機構)
    湯川 博 (量子科学技術研究開発機構)
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表彰委員会
委員長 水落 憲和(京都大学)
委員  岡野 俊行(早稲田大学)
    柿沼志津子(量子科学技術研究開発機構)
    合田 圭介(東京大学)
    田中 成典(神戸大学)
産官連携委員会
委員長 合田 圭介(東京大学)
委員  須原 哲也(量子科学技術研究開発機構)
    瀬藤 光利(浜松医科大学)
    永田 鎮也(日本光電工業株式会社)
    馬場 嘉信(名古屋大学)
    藤田 貴敏(量子科学技術研究開発機構)
    楊井 伸浩(九州大学)
学学連携委員会
委員長 飯田 琢也(大阪公立大学)
委員  田中 勇希(量子科学技術研究開発機構)
    豊内 秀一(大阪公立大学)
    藤原 正澄(岡山大学)
    三浦 夏子(大阪公立大学)
総務委員会
委員長 今岡 達彦(量子科学技術研究開発機構)
委員  鈴木 団 (大阪大学)
    高草木洋一(量子科学技術研究開発機構)
    田桑 弘之(量子科学技術研究開発機構)
    三浦 夏子(大阪公立大学)
    森 義治 (慶應義塾大学)
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活動目的

量子生命科学会は、最先端の量子技術あるいは量子科学の知見を総合的に利活用し、従来不可能であった極微の空間・時間スケールあるいは超高感度での生体内部の観測や生体分子の計測、生命機能のモデリングなどを実現することにより、量子論・量子力学を基盤とした視点から生命全般の根本原理を明らかにすると同時に、医療・工業・情報・宇宙・環境・農業・エネルギー等の分野において革新的産業応用等を目指す新たな学術領域「量子生命科学」の普及・促進のため、会員相互の支援、交流を図ることを目的としています。

学会誕生の経緯

量子生命科学への思い
~かくして量子生命科学会は誕生した~

量子生命科学会初代会長 平野俊夫
(国立研究開発法人 量子科学技術研究開発 機構 初代理事長)

 2015年末、新聞に掲載されていた「量子力学で生命の謎を解く、アル=カリーリ、マクファデン共著、水谷淳訳」の 書評が私の目を惹きつけた。当時、私は新たに発足する量子科学技術研究開発機構(量研/QST )初代理事長就任の打診を受けていた。私の専門は免疫学という生命科学の1つである。当時の私には量子という言葉は馴染みがなかったが、量研/QST 理事長就任を打診されていた身なので「量子」と「生命」という言葉が目に飛び込んできた。その本は以下のように始まる。
「年明け、ヨーロッパに冬の寒波が訪れ、夕暮れの空気は身を刺すような冷たさだ。若いコマドリの心の奥深くに潜んでいた、それまでぼんやりとしていた目的意識と決意が、徐々に強まってくる。この鳥はこの数週間、普通の量よりはるかに大量の昆虫やクモや毛虫や果実を貪り食い今では体重は去年の8月に我が子が巣立ちした時の2倍近くになっている。その体重の増加分のほとんどは脂肪の蓄えで、まもなく出発する困難な旅路の燃料として必要になる 」。
 そう、コマドリは毎年北欧から3000km の渡りをし地中海や北アフリカ沿岸までの旅をする。しかも正確に同じ場所にたどり着く。コマドリは如何にして方向や位置を認識するのか?コマドリのみならず動物界では同じような現象が広く認められる。例えば鮭である。鳥、クジラ、伊勢海老、カエル、サンショウウオ、ハチ等はどんなに優れた人間の探検家にとっても困難な旅へと出発する能力を持っている。この能力がコマドリでは、実は量子力学に基づいた、磁気受容であるというのだ。それは普通のコンパスのように磁北極と磁南極の違いを見分けるのではなく、磁極と赤道の違いしか見分けられない。磁力線と地面が作る角度(伏角)を測定する伏角コンパス であるというのだ。さらに、伏角コンパスはおそらくクリプトクロムという目のタンパクを使っているらしい。しかも古典力学ではなく量子力学を使っているらしい。オオカバマダラという蝶は、夏はカナダで過ごし冬はメキシコ山中で暮らす。この3000 km 以上の大移動、どうやら太陽コンパスと補正のための24時間周期の体内時計を使用しているらしい。しかもこの体内時計にクリプトクロムという目のタンパクが関与し、磁気受容と同じく量子力学に基づいているらしい。

 さらに、以下のような内容が続く、

 量子力学は19世紀最後の年の1900年 12 月 14 日(今では量子の日と言われている)にマックス・プランクが熱放射は飛び飛びの決まった振動数で振動している不連続の微小な塊(量子)として放出されており、それ以上は分割できないという画期的な説を提唱したことに始まる。エネルギーを連続的なものと見ていた古典的な放射の理論とは完全にかけ離れていた。その後アイン シュタイン、ボーア、ハイゼンベルグ、シュレディンガー等により 1920 年代に量子力学の数学的な土台はほぼ完成した。現代では、アイン シュタインの相対性理論と量子理論は双璧をなしており、宇宙の成り立ちから 、私たちを取り囲む DVD、ブルーレイプレイヤー、スマホ、コンピュータ等量子力学の知識なくしては何一つ生まれてこない。この量子力学が「生命とはなにか」という謎を紐解く最大の候補であるというのである。
 コマドリの磁気受容に始まり、酵素、光合成、コマドリの磁気受容に始まり、酵素、光合成、嗅嗅覚、そして遺伝情報の忠実性(このことにより種の維持が保証される)や、非忠実性(このことにより進化が起こる)、に実は深く量子力学が関与していることが非常にわかりやすく説明されていく。
 量子力学の不気味な現実(著者はあえて不気味、奇妙という言葉を使用して、量子力学が古典的なニュートン力学の世界、いわば常識の世界といかにかけ離れているかを印象づけようとしているように思える)、すなわち、1)波動と粒子の二重性、2)壁をも素通りできる量子トンネル効果、3)同時に2つ(あるいは複数)の振る舞いをする重ね合わせ現象、4)さらには遠隔にあるものに影響を与える不気味な遠隔作用、すなわち「もつれ」が存在する。これら常識では理解不能の現象をわかりやすく例えを例えを引用して説明していく。特に、空間を隔てて2個の粒子が瞬時に繋がる「量子もつれ」と1個の粒子が同時に2つ以上の状態の重ね合わせ状態を取れること、この2つの理解が量子生物学の理解には特に重要であることを述べる。さらに量子「コヒーレンス」を、なんらかの存在が量子力学的に振る舞うことであると定義し、「デコヒーレンス」はコヒーレントな振る舞いが失われて、量子的振る舞いが古典的振る舞い(ニュートン力学に沿った振る舞い)に変わる物理的プロセスであると定義して話を進めていく。
 各章は、量子力学の説明、渡りをはじめ光合成や酵素等の生物現象の説明、さらにはこれらの現象が量子現象でどのように説明されるかを、量子力学の理解を深めながら、それぞれが絡み合いながら話が進んで行く。
 科学者の3大疑問とは、1)宇宙誕生、2)生命誕生、そして3)意識の形成、であると著者は考えている。生命体を分解することは簡単だが、分解した生命体の部品をすべて使用しても生命を誕生することはできない。人間はもちろんのこと、シンプルなウイルスでさえ部品を混ぜ合わせて作ることはできない。シュレディンガーは1943年の講義内容を翌年「生命とは何か」で発表した。「生命体はマクロな系のように思えるが、その振る舞いの一部は温度が絶対温度に近づいて分子の無秩序さが失われた時にあらゆる系がとりうるものに近い」。絶対温度ではすべての物体が熱力学の法則ではなく量子力学の法則に従う。著者は、量子力学が「生命」や「意識」すなわち「こころ」が如何にして形成されるかという問題に迫れるか、その可能性にも言及する。マクロな世界が量子の世界に大きく影響を受けるという性質は生命特有のものであると論じる。「ニュートン力学」や「熱力学」が渦巻く海を航海している船に生命をたとえて、これらの嵐の中で渦巻く様々なノイズをうまく利用して、量子力学の世界と結び、コヒーレント状態を維持している状態が生命であり、このノイズを制御することができなくなり「熱力学」の渦に飲み込まれ、量子の世界との結びつきが失われると、生命は永遠に失われ、ニュートン力学が支配するただの物質になるのではないかと推論している。さらに死とはもしかすると、生命体が、秩序立った量子の世界との結びつきを断ち切られ、熱力断ち切られ、熱力学のランダムな力に対抗するパワーを失うことであるかもしれないと推論する—————あたかも帆船が、嵐吹き荒れる大海原で転覆することなく進むことができるのは、船長が帆をうまく使い、嵐という大きなノイズを打ち消しているように。そして、一旦嵐の波に飲み込まれると、永遠の無秩序な状態になり沈没を余儀なくされるように。
 最後に、将来様々な部品を使用して、それらをコヒーレントな状態に維持できるようになれば量子の世界と結びついた人工合成生命が誕生するかもしれないという可能性を説いて、「量子力学と生命をめぐる旅」は幕を降ろす。

 この本との出会いは衝撃的であった。この本との出会いが、私をして「量子生命科学」開拓への道を開いてくれた。

QSTは、放射線医学総合研究所に日本原子力研究開発機構の核融合部門と量子ビーム部門が移管・統合されて2016年4月に新しく発足した。その初代理事長に就任して、まず考えたことは、理工学系と医学生物系の研究領域を融合することにより、新しい研究領域を開拓することであった。
 生命科学は、16世紀末の光学顕微鏡の発明により従来の形態学や分類学から細胞生物学へと大きく転換した。20世紀に入り量子革命の産物である電子顕微鏡の発明や、生化学や遺伝子工学の進展により細胞生物学から分子生物学へと大きく飛躍した。ワトソンとクリックによる DNA 二重螺旋構造の発表をきっかけとして20世紀後半に分子生物学が大きく花開き、生命の仕組みが解明されるとともに多くの革新的な医薬や診断技術が開発された。 DNA に記された遺伝情報が解読され、今や人類は生命体の部品の設計図を手に入れるに至ったが、依然として「生命体と非生命体」との根源的な相違は謎である。
 「量子力学に基づいた様々な計測技術を生命科学に応用すれば新しいことが分かるはず、量子力学の観点から生命を研究すれば生命の謎に迫れるかもしれない」と考え、量子生命科学の開拓をゼロから始めた。2016 年には QST 内外の理工学系と医学生物系の研究者による勉強会を開催するとともに、理事長ファンドで量子生命科学の部門横断的な研究者の連携組織である未来ラボを設立した。 2 017 年に全国の研究者コミュニティの構築を目的として「量子生命科学研究会」を設立し、同年QSTにおいて量子生命科学をテーマとした国際シンポジウムを、アル=カリーリとマクファデン両博士に協力していただき開催した。2019年に研究会の中核メンバーで形成した有識者会議による「量子生命科学の推進に関する提言」をとりまとめ、ウェブで公開すると共に、政府機関や大学、民間研究助成機関等に幅広く配布した。同年、研究会を母体として「一般社団法人量子生命科学会」を設立すると共に、研究組織である「量子生命科学領域」(現・量子生命科学研究所)をQST内に設置した。2020年には国の「量子技術イノベーション戦略」に量子生命の文言が記載され、 Q-LEAP の量子生命科学プロジェクトが採用された。2021年にこれに基づく国内8つの量子技術イノベーション拠点の一つとしてQSTが「量子生命拠点」に指定された。2022 年の夏には、最先端の量子計測技術と動物実験施設を集積した量子生命科学研究所の施設建屋がいよい 竣工予定である。
 19世紀末にマックス・プランクが量子論・量子力学への扉を開いた。この「第一次量子革命」から100年を経て、量子通信や量子コンピュータといった分野を先頭に量子現象を積極的に利用する、「第二次量子革命」と呼ばれる時代にいる。この流れを生命科学分野にまで大きく展開しようとするのが量子生命科学である。「生命とは?」を考えるために、21世紀の今、満開状態にある分子生物学が、すぐ先に来る閉塞感を打破して、新しい生命科学の領域に至るためには量子の世界に旅する以外に道はないのではないかと思う。是非とも、理工学系、医学生命系等研究分野を問わず、若い研究者やこれから研究者を目指す人に量子生命科学会の仲間になってほしい。そして生命の謎に迫ってほしい。

学会関連年表

2016年4月
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(量研、QST )設立(理事長:平野俊夫)。
9月
QST内に量子生命科学に関する戦略的理事長ファンド「未来ラボ」を設置。
2017年4月
全国の研究者に呼び掛け量子生命科学研究会を設立(会長:平野俊夫)
第1回学術集会「技と好奇心のコヒーレンス」を東京大学山上会館にて開催。
7月
QST第1回国際シンポジウムを「量子生命科学」をテーマとして開催。
2018年5月
JST さきがけ「量子技術を適用した生命科学基盤の創出」(研究総括:国際マスイメージングセンター ・ 瀬藤光利 センター長)と連携し、 研究会第2回学術集会を東京大学弥生講堂にて開催。
2019年3月
研究会有識者会議による「量子生命科学の推進に関する提言」を公開。
政府機関や大学、民間研究助成機関等に幅広く配布。
4月
量子生命科学に関する未来ラボを発展的に解消し、QST内に研究組織「量子生命科学領域」を設置。
領域長に名古屋大学・馬場嘉信教授、領域研究統括に京都大学・白川昌宏教授を招聘。

研究会を母体として「一般社団法人量子生命科学会」を設立(会長:平野俊夫)
5月
学会第1回大会「第二次量子革命 生命の謎に挑む。」を、文部科学省および26学会の後援により東京大学弥生講堂にて開催。
12月
QST第3回国際シンポジウムを、再度、「量子生命科学」をテーマとして開催。
2020年1月
国の量子技術イノベーション戦略が決定。量子生命の文言が記載された。
8月
文部科学省 光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)に「量子生命技術の創製と医学・生命科学の革新」(代表:馬場嘉信)が採択。13大学、3国立研究機関、10企業で開始。
12月
学会第2回大会「量子による生命フロンティアへの挑戦」(大会長:京都大学・白川昌宏教授)を京都大学(オンライン)にて開催。
2021年2月
国の量子技術イノベーション拠点として国内8拠点が発足。QSTが「量子生命」拠点に指定。
4月
QSTの量子生命科学領域を「量子生命・医学部門 量子生命科学研究所」に改組。
9月
学会第3回大会「量子と生命の婚活」(大会長:東京大学・合田圭介教授)を東京大学(オンライン)にて開催。
2022年5月
学会第4回大会「Paint It, Quantum:量子で書き換えろ!生命現象の理解」(大会長:神戸大学・田中成典教授)を神戸大学にて開催。
6月
QST量子生命科学研究所の建屋が竣工予定。
最先端の量子計測技術と動物実験施設等を集約した施設が2023年1月に本格稼働開始の予定。
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過去の学術集会

第5回大会
量子でLeapする生命の理解
大会長 原田慶恵 大阪大学蛋白質研究所 教授
会期  2023年05月18~19日
会場  大阪大学豊中キャンパス 大阪大学会館
第4回大会
Paint It, Quantum: 量子で書き換えろ!生命現象の理解
大会長 田中成典 神戸大学大学院システム情報学研究科 教授
会期  2022年05月26日~27日
会場  神戸大学百年記念館六甲ホール
第3回大会 量子と生命の婚活
大会長 合田圭介 東京大学大学院理学系研究科教授
会期  2021年9月16日
会場  オンライン
第2回大会 量子による生命フロンティアへの挑戦
大会長 白川昌宏 京都大学大学院工学研究科教授
会期  2020年12月23~24日
会場  オンライン
第1回大会
量子生命科学研究会
第3回学術集会
第二次量子革命 生命の謎に挑む
大会長 平野俊夫 量子科学技術研究開発機構 理事長
会期  2019年05月23日
会場  東京大学弥生講堂一条ホールおよびアネックス
量子生命科学研究会
第2回学術集会
大会長 平野俊夫 量子科学技術研究開発機構 理事長
会期  2018年05月10日
会場  東京大学弥生講堂一条ホール
量子生命科学研究会
第1回学術集会
技と好奇心のコヒーレンス
大会長 平野俊夫 量子科学技術研究開発機構 理事長
会期  2017年04月12日
会場  東京大学山上会館
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学会賞 歴代受賞者

2023年度 研究奨励賞
庄司光男(筑波大学計算科学研究センター)

「量子化学計算を活用した複雑酵素反応および生体分子ホモキラリティ機構の解明」
酵素に代表される生体構成分子の電子状態および分子物性における顕著な量子力学的選択性や反応性の理論的解明を目指して、主に量子古典混合計算法などに基づき、光合成光化学系、金属含有タンパク質、ホモキラル・アミノ酸前駆体等の特異な量子物性を明らかにした。
関連論文
  準備中

2023年度 研究奨励賞
楊井伸浩(九州大学大学院工学研究院)

「三重項動的核偏極法の新規技術開発と生体関連分子系への適用」
光励起三重項の電子スピン偏極を核スピン偏極へ移行するtriplet-DNP法の適用範囲を大幅に拡大することを目指し、様々なオリジナル偏極源を開発して生体関連分子の高感度超核偏極を達成し、核磁気共鳴を用いた分光法や画像化法の新局面を切り拓いた。
関連論文
  準備中

2023年度 若手優秀賞
Yuqi Zhou(周雨奇)(東京大学大学院理学系研究科)

「先端光量子技術による血小板凝集の大規模画像解析法の開発」
周波数多重分割の原理を超高速光学イメージングに応用し、マイクロ流体チップと組み合わせることで超高速流体顕微鏡を実現し、それをもとに、血栓症の兆候となる血小板凝集塊の大規模画像解析法を新たに提案・実証した。
関連論文
  準備中

2022年度 研究奨励賞
鬼頭宏任(近畿大学理工学部)

「生体分子系における電子およびエネルギー移動の理論的解析手法の開発」
光合成タンパク質やDNA系などで見られる電子や励起エネルギーの移動ダイナミクスを理論的に解析するための第一原理的な手法の開発を行い、それらの化学反応を支配する物理的なメカニズムを解明する新たな方法論を構築した。
関連論文
  準備中

2022年度 若手優秀賞
齋藤雄太朗(東京大学大学院工学系研究科)

「量子超偏極核磁気共鳴イメージング分子プローブの開発」
動的核超偏極(DNP)法を用いた核磁気共鳴イメージング(MRI)において、生体内で機能する実用的な分子プローブを新たに設計・開発し、それを用いて重要ながん関連酵素の一つであるアミノペプチダーゼNの生体内活性の検出および腫瘍内マッピングなどに世界で初めて成功した。
関連論文
  • Saito Y, Yatabe H, Tamura I, Kondo Y, Ishida R, Seki T, Hiraga K, Eguchi A, Takakusagi Y, Saito K, Oshima N, Ishikita H, Yamamoto K, Krishna MC, Sando S. Structure-guided design enables development of a hyperpolarized molecular probe for the detection of aminopeptidase N activity in vivo. Sci Adv. 2022 Mar 8: eabj2667.

2021年度 研究奨励賞
五十嵐龍治(量子科学技術研究開発機構)

小型かつ超高感度で温度・磁場・電場など多項目の物理計測に適用可能な量子センサによる生体微小環境計測技術の開発
関連論文
  • Fujisaku T, Tanabe R, Onoda S, Kubota R, Segawa TF, So FT, Ohshima T, Hamachi I, Shirakawa M, Igarashi R. pH Nanosensor Using Electronic Spins in Diamond. ACS Nano. 2019 Oct 22;13(10):11726-11732.
  • Igarashi R, Yoshinari Y, Yokota H, Sugi T, Sugihara F, Ikeda K, Sumiya H, Tsuji S, Mori I, Tochio H, Harada Y, Shirakawa M. Real-time background-free selective imaging of fluorescent nanodiamonds in vivo. Nano Lett. 2012 Nov 14;12(11):5726-32.

2021年度 研究奨励賞
石崎章仁(分子科学研究所)

量子開放系の動的過程を記述するための基礎理論の構築と光励起生体反応系におけるエネルギー輸送および変換過程の解明
関連論文
  • Ishizaki A, Calhoun TR, Schlau-Cohen GS, Fleming GR. Quantum coherence and its interplay with protein environments in photosynthetic electronic energy transfer. Phys Chem Chem Phys. 2010 Jul 21;12(27):7319-37.
  • Ishizaki A, Fleming GR. Theoretical examination of quantum coherence in a photosynthetic system at physiological temperature. Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Oct 13;106(41):17255-60.

2021年度 研究奨励賞
平野優(量子科学技術研究開発機構)

タンパク質の超高分解能結晶構造解析と精密構造情報に基づく量子論的な生体分子反応メカニズムの解明
関連論文
  • Hirano Y, Tsukamoto K, Ariki S, Naka Y, Ueda M, Tamada T. X-ray crystallographic structural studies of α-amylase I from Eisenia fetida. Acta Crystallogr D Struct Biol. 2020 Sep 1;76(Pt 9):834-844. 
  • Hirano Y, Kimura S, Tamada T. High-resolution crystal structures of the solubilized domain of porcine cytochrome b5. Acta Crystallogr D Biol Crystallogr. 2015 Jul;71(Pt 7):1572-81.

2021年度 若手優秀賞
肖廷輝(東京大学大学院理学系研究科)

分子振動を利用した電荷移動に関わる量子生命現象を計測するための金属フリー新規ナノフォトニックデバイスの開発
関連論文
  • Xiao TH, Cheng Z, Luo Z, Isozaki A, Hiramatsu K, Itoh T, Nomura M, Iwamoto S, Goda K. All-dielectric chiral-field-enhanced Raman optical activity. Nat Commun. 2021 May 24;12(1):3062.
  • Chen N*, Xiao TH*, Luo Z, Kitahama Y, Hiramatsu K, Kishimoto N, Itoh T, Cheng Z, Goda K. Porous carbon nanowire array for surface-enhanced Raman spectroscopy. Nat Commun. 2020 Sep 24;11(1):4772. (* contributed equally)

歴代会長

初代会長 平野俊夫(量子科学技術研究開発機構 前理事長)平成31年4月~令和5年5月

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