一般社団法人
量子生命科学会

学会概要
about us

役員情報、活動、過去の大会、受賞者等を掲載しています。

会長ご挨拶

一般社団法人量子生命科学会 会長 平野俊夫
(国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 理事長)


 「量子」と「生命」。科学の言葉としてはとても遠く、あまり関係性を見出せないと思う方が多いでしょう。ところが今、この二つの分野が相互作用して、面白いことが起きようとしています。

 分子生物学により、DNAに記された遺伝情報からタンパク質が作られる仕組みや、生命の営みの中でタンパク質が果たす役割等が明らかになりました。ヒトを始めとした様々な生物種の全ゲノム情報も既に解読されています。しかし、いわば生物の全部品の情報が得られているにもかかわらず、人類究極の問い「生命とは何か?」の答えはまだ得られていません。自動車は部品が与えられれば組み立てて動かすことができるのに、なぜヒトや大腸菌ではそれができないのでしょうか。それは、部品どうしの繊細な相互作用の情報が欠落しているからです。本学会の究極の目的は「量子の目」から生命の謎に迫り、「生命とは何か?」という人類究極の謎に答えを出すことです。

 生命科学の革新は、歴史上、しばしば新しい計測技術によってもたらされてきました。16世紀末の光学顕微鏡の発明により細胞が発見され、20世紀にはX線結晶構造解析や電子顕微鏡等の技術によって分子生物学が発展しました。そして21世紀の今、量子技術に基づく新しい計測技術が登場し、生命科学への応用が始まっています。

 たとえば、近年注目を集めているダイヤモンドNVセンターを利用したナノ量子センサは、生きた細胞内部の温度やpHや粘性等を継続的に計測することができ、細胞分化のプロセスを明らかにする研究等に利用されています。量子操作によりMRIやNMRを桁違いに高感度化する超偏極技術は、生体内の物質の化学変化(代謝)を体外から追跡する研究等に用いられています。軟X線領域放射光や中性子による最新の分子構造解析技術は、生体分子の電子の振る舞い、つまりタンパク質やDNA等の分子間の「繊細な相互作用」を分析することができます。

 また、植物が光エネルギーを効率的に捕集するしくみ、渡り鳥が微弱な地磁気を知覚するしくみ、放射線がDNA分子に損傷を生じさせる過程等では、量子効果が重要な役割を担っていることが明らかになってきており、最新の計測技術を用いた研究が行われています。さらには脳における意識や認知のしくみを、量子力学の数学的枠組みで理解しようという試みもあります。

 我々は「量子生命科学」という新しい学術分野を以下の3つを融合したものと考えています。

  1. 「量子科学技術」を高度化し、生命科学研究に応用することで、今まで観察したことがない現象を見出し、生命現象の理解を深めること:量子科学技術による生命現象研究。
  2. 量子論的枠組みに基づいて生命のふるまいを理解すること:量子生物学。
  3. 上記1と2の知見に基づき、量子科学技術を医学・医療や産業に応用し、社会の発展に貢献すること。
 
 上記の3つの要素は独立ではありません。新たな量子科学技術により、未知の生命現象を観察する道が開け、それは生命における量子論的な側面を新たに発見し得る方法論を提供します。そこから得られる理解は、新たな計測や介入手法等の技術発展を刺激し、これらの双方向的進展が車の両輪のごとく生命科学の分野における革新をもたらすと考えます。そして、究極には生命現象を量子のレベルで語ることができるようになります。さらにそれらの知見に基づき、医療分野における全く新しい診断技術や公衆衛生におけるウイルス等の極微量検出技術、新機軸の分子デザインによる創薬等が生み出され、量子科学技術が広く医学・医療を始めとする様々な産業の発展に貢献することが見込まれています。必ず、社会に大きなイノベーションを起こすに違いありません。

 19世紀末にマックス・プランクが量子論・量子力学への扉を開きました。この「第一次量子革命」から100年を経て、人類は量子通信や量子コンピュータといった分野を先頭に量子現象を積極的に利用する「第二次量子革命」と呼ばれる時代に入りつつあります。この流れを生命科学分野にまで大きく展開しようとするのが量子生命科学です。21世紀の今、満開状態にある分子生物学から量子生命科学へと時代は移りつつあります。

 「量子」と「生命」。この学会は、専門性の違いこそを価値と見なし、多様性を尊重しつつ調和させ、異分野融合により新しい時代を拓こうとする学会です。物理学、化学、生物学、情報学、数学、医学、薬学、農学、工学、哲学、経済学…あなたの専門分野は問いません。仲間となり、一緒に「量子生命科学」を作っていきませんか。そして生命の謎に迫ってほしい。

役員情報

任期:令和3年度第1回定期社員総会の日(2021年6月17日)より、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時まで。
代表理事・会長 平野俊夫(量子科学技術研究開発機構)
理 事 馬場嘉信(名古屋大学)
理 事 合田圭介(東京大学)
監 事 島田義也(環境科学技術研究所)
監 事 藤堂 剛(大阪大学)
執行役 白川昌宏(京都大学)
執行役 浜地 格(京都大学)
執行役 田中成典(神戸大学)
執行役 瀬藤光利(浜松医科大学)
執行役 沈 建仁(岡山大学)
執行役 須原哲也(量子科学技術研究開発機構)

評議員

任期:令和3年度第1回定期社員総会の日(2021年6月17日)より、選任の2年後に実施される評議員選挙の終了の時まで。(五十音順)
飯田 琢也 (大阪公立大学)
五十嵐 龍治(量子科学技術研究開発機構)
泉 雄大  (量子科学技術研究開発機構)
上田 泰己 (東京大学)
大島 武  (量子科学技術研究開発機構)
岡野 俊行 (早稲田大学)
岡部 弘基 (東京大学)
加藤 尚志 (早稲田大学)
北川 勝浩 (大阪大学)
合田 圭介 (東京大学)
近藤 科江 (東京工業大学)
重田 育照 (筑波大学)
島田 義也 (環境科学技術研究所)
白川 昌宏 (京都大学)
沈 建仁  (岡山大学)
菅野 純夫 (東京医科歯科大学)
須原 哲也 (量子科学技術研究開発機構)
瀬藤 光利 (浜松医科大学)
竹内 繁樹 (京都大学)
田中 成典 (神戸大学)
玉田 太郎 (量子科学技術研究開発機構)
藤堂 剛  (大阪大学)
根来 誠  (大阪大学)
波多野 睦子(東京工業大学)
馬場 嘉信 (名古屋大学)
浜地 格  (京都大学)
原田 慶恵 (大阪大学)
平野 俊夫 (量子科学技術研究開発機構)
広井 賀子 (神奈川工科大学)
藤田 貴敏 (量子科学技術研究開発機構)
前田 公憲 (埼玉大学)
三木 邦夫 (京都大学)
村上 正晃 (北海道大学)
村田 武士 (千葉大学)
山田 真希子(量子科学技術研究開発機構)

常設委員会

委員長の任期:理事・執行役の任期まで。
委員の任期:選任時の理事の任期まで。(五十音順)

学術委員会
委員長 馬場 嘉信 (名古屋大学)
委員  石崎 章仁 (自然科学研究機構)
    岡部 弘基 (東京大学)
    竹内 繁樹 (京都大学)
    玉野井 冬彦(京都大学)
    波多野 睦子(東京工業大学)
    原田 慶恵 (大阪大学)
    前田 公憲 (埼玉大学)
    横谷 明徳 (量子科学技術研究開発機構)
財務委員会
委員長 白川 昌宏(京都大学)
委員  今岡 達彦(量子科学技術研究開発機構)
    川野 光子(量子科学技術研究開発機構)
    河野 秀俊(量子科学技術研究開発機構)
    藤巻 秀 (量子科学技術研究開発機構)
広報委員会
委員長 合田 圭介(東京大学)
委員  飯田 琢也(大阪公立大学)
    泉 雄大 (量子科学技術研究開発機構)
    今岡 達彦(量子科学技術研究開発機構)
    岡部 弘基(東京大学)
    川野 光子(量子科学技術研究開発機構)
    田中 成典(神戸大学)
    藤巻 秀 (量子科学技術研究開発機構)
人材育成委員会
委員長 浜地 格 (京都大学)
委員  五十嵐龍治(量子科学技術研究開発機構)
    岡部 弘基(東京大学)
    広井 賀子(神奈川工科大学)
    山田真希子(量子科学技術研究開発機構)
    湯川 博 (名古屋大学)
広報委員会
委員長 合田 圭介(東京大学)
委員  飯田 琢也(大阪公立大学)
    泉 雄大 (量子科学技術研究開発機構)
    今岡 達彦(量子科学技術研究開発機構)
    岡部 弘基(東京大学)
    川野 光子(量子科学技術研究開発機構)
    田中 成典(神戸大学)
    藤巻 秀 (量子科学技術研究開発機構)
表彰委員会
委員長 田中 成典 (神戸大学)
委員  柿沼 志津子(量子科学技術研究開発機構)
    合田 圭介(東京大学)
    三木 邦夫(京都大学)
    水落 憲和(大阪大学)
産官連携委員会
委員長 瀬藤 光利(浜松医科大学)
委員  合田 圭介(東京大学)
    須原 哲也(量子科学技術研究開発機構)
    永田 鎮也(日本光電工業株式会社)
    馬場 嘉信(名古屋大学)
学学連携委員会
委員長 沈 建仁 (岡山大学)
委員  島田 義也(環境科学技術研究所)
    玉田 太郎(量子科学技術研究開発機構)
    三木 邦夫(京都大学)
    村田 武士(千葉大学)
総務委員会
委員長 須原 哲也 (量子科学技術研究開発機構)
委員  今岡 達彦 (量子科学技術研究開発機構)
    川野 光子 (量子科学技術研究開発機構)
    三枝 公美子(量子科学技術研究開発機構)
    河野 秀俊 (量子科学技術研究開発機構)
    藤巻 秀  (量子科学技術研究開発機構)
学学連携委員会
委員長 沈 建仁 (岡山大学)
委員  島田 義也(環境科学技術研究所)
    玉田 太郎(量子科学技術研究開発機構)
    三木 邦夫(京都大学)
    村田 武士(千葉大学)

活動目的

量子生命科学会は、最先端の量子技術あるいは量子科学の知見を総合的に利活用し、従来不可能であった極微の空間・時間スケールあるいは超高感度での生体内部の観測や生体分子の計測、生命機能のモデリングなどを実現することにより、量子論・量子力学を基盤とした視点から生命全般の根本原理を明らかにすると同時に、医療・工業・情報・宇宙・環境・農業・エネルギー等の分野において革新的産業応用等を目指す新たな学術領域「量子生命科学」の普及・促進のため、会員相互の支援、交流を図ることを目的としています。

学会誕生の経緯

量子生命科学への思い
~かくして量子生命科学会は誕生した~

量子生命科学会初代会長 平野俊夫
(国立研究開発法人 量子科学技術研究開発 機構 初代理事長)

 2015年末、新聞に掲載されていた「量子力学で生命の謎を解く、アル=カリーリ、マクファデン共著、水谷淳訳」の 書評が私の目を惹きつけた。当時、私は新たに発足する量子科学技術研究開発機構(量研/QST )初代理事長就任の打診を受けていた。私の専門は免疫学という生命科学の1つである。当時の私には量子という言葉は馴染みがなかったが、量研/QST 理事長就任を打診されていた身なので「量子」と「生命」という言葉が目に飛び込んできた。その本は以下のように始まる。
「年明け、ヨーロッパに冬の寒波が訪れ、夕暮れの空気は身を刺すような冷たさだ。若いコマドリの心の奥深くに潜んでいた、それまでぼんやりとしていた目的意識と決意が、徐々に強まってくる。この鳥はこの数週間、普通の量よりはるかに大量の昆虫やクモや毛虫や果実を貪り食い今では体重は去年の8月に我が子が巣立ちした時の2倍近くになっている。その体重の増加分のほとんどは脂肪の蓄えで、まもなく出発する困難な旅路の燃料として必要になる 」。
 そう、コマドリは毎年北欧から3000km の渡りをし地中海や北アフリカ沿岸までの旅をする。しかも正確に同じ場所にたどり着く。コマドリは如何にして方向や位置を認識するのか?コマドリのみならず動物界では同じような現象が広く認められる。例えば鮭である。鳥、クジラ、伊勢海老、カエル、サンショウウオ、ハチ等はどんなに優れた人間の探検家にとっても困難な旅へと出発する能力を持っている。この能力がコマドリでは、実は量子力学に基づいた、磁気受容であるというのだ。それは普通のコンパスのように磁北極と磁南極の違いを見分けるのではなく、磁極と赤道の違いしか見分けられない。磁力線と地面が作る角度(伏角)を測定する伏角コンパス であるというのだ。さらに、伏角コンパスはおそらくクリプトクロムという目のタンパクを使っているらしい。しかも古典力学ではなく量子力学を使っているらしい。オオカバマダラという蝶は、夏はカナダで過ごし冬はメキシコ山中で暮らす。この3000 km 以上の大移動、どうやら太陽コンパスと補正のための24時間周期の体内時計を使用しているらしい。しかもこの体内時計にクリプトクロムという目のタンパクが関与し、磁気受容と同じく量子力学に基づいているらしい。

 さらに、以下のような内容が続く、

 量子力学は19世紀最後の年の1900年 12 月 14 日(今では量子の日と言われている)にマックス・プランクが熱放射は飛び飛びの決まった振動数で振動している不連続の微小な塊(量子)として放出されており、それ以上は分割できないという画期的な説を提唱したことに始まる。エネルギーを連続的なものと見ていた古典的な放射の理論とは完全にかけ離れていた。その後アイン シュタイン、ボーア、ハイゼンベルグ、シュレディンガー等により 1920 年代に量子力学の数学的な土台はほぼ完成した。現代では、アイン シュタインの相対性理論と量子理論は双璧をなしており、宇宙の成り立ちから 、私たちを取り囲む DVD、ブルーレイプレイヤー、スマホ、コンピュータ等量子力学の知識なくしては何一つ生まれてこない。この量子力学が「生命とはなにか」という謎を紐解く最大の候補であるというのである。
 コマドリの磁気受容に始まり、酵素、光合成、コマドリの磁気受容に始まり、酵素、光合成、嗅嗅覚、そして遺伝情報の忠実性(このことにより種の維持が保証される)や、非忠実性(このことにより進化が起こる)、に実は深く量子力学が関与していることが非常にわかりやすく説明されていく。
 量子力学の不気味な現実(著者はあえて不気味、奇妙という言葉を使用して、量子力学が古典的なニュートン力学の世界、いわば常識の世界といかにかけ離れているかを印象づけようとしているように思える)、すなわち、1)波動と粒子の二重性、2)壁をも素通りできる量子トンネル効果、3)同時に2つ(あるいは複数)の振る舞いをする重ね合わせ現象、4)さらには遠隔にあるものに影響を与える不気味な遠隔作用、すなわち「もつれ」が存在する。これら常識では理解不能の現象をわかりやすく例えを例えを引用して説明していく。特に、空間を隔てて2個の粒子が瞬時に繋がる「量子もつれ」と1個の粒子が同時に2つ以上の状態の重ね合わせ状態を取れること、この2つの理解が量子生物学の理解には特に重要であることを述べる。さらに量子「コヒーレンス」を、なんらかの存在が量子力学的に振る舞うことであると定義し、「デコヒーレンス」はコヒーレントな振る舞いが失われて、量子的振る舞いが古典的振る舞い(ニュートン力学に沿った振る舞い)に変わる物理的プロセスであると定義して話を進めていく。
 各章は、量子力学の説明、渡りをはじめ光合成や酵素等の生物現象の説明、さらにはこれらの現象が量子現象でどのように説明されるかを、量子力学の理解を深めながら、それぞれが絡み合いながら話が進んで行く。
 科学者の3大疑問とは、1)宇宙誕生、2)生命誕生、そして3)意識の形成、であると著者は考えている。生命体を分解することは簡単だが、分解した生命体の部品をすべて使用しても生命を誕生することはできない。人間はもちろんのこと、シンプルなウイルスでさえ部品を混ぜ合わせて作ることはできない。シュレディンガーは1943年の講義内容を翌年「生命とは何か」で発表した。「生命体はマクロな系のように思えるが、その振る舞いの一部は温度が絶対温度に近づいて分子の無秩序さが失われた時にあらゆる系がとりうるものに近い」。絶対温度ではすべての物体が熱力学の法則ではなく量子力学の法則に従う。著者は、量子力学が「生命」や「意識」すなわち「こころ」が如何にして形成されるかという問題に迫れるか、その可能性にも言及する。マクロな世界が量子の世界に大きく影響を受けるという性質は生命特有のものであると論じる。「ニュートン力学」や「熱力学」が渦巻く海を航海している船に生命をたとえて、これらの嵐の中で渦巻く様々なノイズをうまく利用して、量子力学の世界と結び、コヒーレント状態を維持している状態が生命であり、このノイズを制御することができなくなり「熱力学」の渦に飲み込まれ、量子の世界との結びつきが失われると、生命は永遠に失われ、ニュートン力学が支配するただの物質になるのではないかと推論している。さらに死とはもしかすると、生命体が、秩序立った量子の世界との結びつきを断ち切られ、熱力断ち切られ、熱力学のランダムな力に対抗するパワーを失うことであるかもしれないと推論する—————あたかも帆船が、嵐吹き荒れる大海原で転覆することなく進むことができるのは、船長が帆をうまく使い、嵐という大きなノイズを打ち消しているように。そして、一旦嵐の波に飲み込まれると、永遠の無秩序な状態になり沈没を余儀なくされるように。
 最後に、将来様々な部品を使用して、それらをコヒーレントな状態に維持できるようになれば量子の世界と結びついた人工合成生命が誕生するかもしれないという可能性を説いて、「量子力学と生命をめぐる旅」は幕を降ろす。

 この本との出会いは衝撃的であった。この本との出会いが、私をして「量子生命科学」開拓への道を開いてくれた。

QSTは、放射線医学総合研究所に日本原子力研究開発機構の核融合部門と量子ビーム部門が移管・統合されて2016年4月に新しく発足した。その初代理事長に就任して、まず考えたことは、理工学系と医学生物系の研究領域を融合することにより、新しい研究領域を開拓することであった。
 生命科学は、16世紀末の光学顕微鏡の発明により従来の形態学や分類学から細胞生物学へと大きく転換した。20世紀に入り量子革命の産物である電子顕微鏡の発明や、生化学や遺伝子工学の進展により細胞生物学から分子生物学へと大きく飛躍した。ワトソンとクリックによる DNA 二重螺旋構造の発表をきっかけとして20世紀後半に分子生物学が大きく花開き、生命の仕組みが解明されるとともに多くの革新的な医薬や診断技術が開発された。 DNA に記された遺伝情報が解読され、今や人類は生命体の部品の設計図を手に入れるに至ったが、依然として「生命体と非生命体」との根源的な相違は謎である。
 「量子力学に基づいた様々な計測技術を生命科学に応用すれば新しいことが分かるはず、量子力学の観点から生命を研究すれば生命の謎に迫れるかもしれない」と考え、量子生命科学の開拓をゼロから始めた。2016 年には QST 内外の理工学系と医学生物系の研究者による勉強会を開催するとともに、理事長ファンドで量子生命科学の部門横断的な研究者の連携組織である未来ラボを設立した。 2 017 年に全国の研究者コミュニティの構築を目的として「量子生命科学研究会」を設立し、同年QSTにおいて量子生命科学をテーマとした国際シンポジウムを、アル=カリーリとマクファデン両博士に協力していただき開催した。2019年に研究会の中核メンバーで形成した有識者会議による「量子生命科学の推進に関する提言」をとりまとめ、ウェブで公開すると共に、政府機関や大学、民間研究助成機関等に幅広く配布した。同年、研究会を母体として「一般社団法人量子生命科学会」を設立すると共に、研究組織である「量子生命科学領域」(現・量子生命科学研究所)をQST内に設置した。2020年には国の「量子技術イノベーション戦略」に量子生命の文言が記載され、 Q-LEAP の量子生命科学プロジェクトが採用された。2021年にこれに基づく国内8つの量子技術イノベーション拠点の一つとしてQSTが「量子生命拠点」に指定された。2022 年の夏には、最先端の量子計測技術と動物実験施設を集積した量子生命科学研究所の施設建屋がいよい 竣工予定である。
 19世紀末にマックス・プランクが量子論・量子力学への扉を開いた。この「第一次量子革命」から100年を経て、量子通信や量子コンピュータといった分野を先頭に量子現象を積極的に利用する、「第二次量子革命」と呼ばれる時代にいる。この流れを生命科学分野にまで大きく展開しようとするのが量子生命科学である。「生命とは?」を考えるために、21世紀の今、満開状態にある分子生物学が、すぐ先に来る閉塞感を打破して、新しい生命科学の領域に至るためには量子の世界に旅する以外に道はないのではないかと思う。是非とも、理工学系、医学生命系等研究分野を問わず、若い研究者やこれから研究者を目指す人に量子生命科学会の仲間になってほしい。そして生命の謎に迫ってほしい。

学会関連年表

2016年4月
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(量研、QST )設立(理事長:平野俊夫)。
9月
QST内に量子生命科学に関する戦略的理事長ファンド「未来ラボ」を設置。
2017年4月
全国の研究者に呼び掛け量子生命科学研究会を設立(会長:平野俊夫)
第1回学術集会「技と好奇心のコヒーレンス」を東京大学山上会館にて開催。
7月
QST第1回国際シンポジウムを「量子生命科学」をテーマとして開催。
2018年5月
JST さきがけ「量子技術を適用した生命科学基盤の創出」(研究総括:国際マスイメージングセンター ・ 瀬藤光利 センター長)と連携し、 研究会第2回学術集会を東京大学弥生講堂にて開催。
2019年3月
研究会有識者会議による「量子生命科学の推進に関する提言」を公開。
政府機関や大学、民間研究助成機関等に幅広く配布。
4月
量子生命科学に関する未来ラボを発展的に解消し、QST内に研究組織「量子生命科学領域」を設置。
領域長に名古屋大学・馬場嘉信教授、領域研究統括に京都大学・白川昌宏教授を招聘。

研究会を母体として「一般社団法人量子生命科学会」を設立(会長:平野俊夫)
5月
学会第1回大会「第二次量子革命 生命の謎に挑む。」を、文部科学省および26学会の後援により東京大学弥生講堂にて開催。
12月
QST第3回国際シンポジウムを、再度、「量子生命科学」をテーマとして開催。
2020年1月
国の量子技術イノベーション戦略が決定。量子生命の文言が記載された。
8月
文部科学省 光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)に「量子生命技術の創製と医学・生命科学の革新」(代表:馬場嘉信)が採択。13大学、3国立研究機関、10企業で開始。
12月
学会第2回大会「量子による生命フロンティアへの挑戦」(大会長:京都大学・白川昌宏教授)を京都大学(オンライン)にて開催。
2021年2月
国の量子技術イノベーション拠点として国内8拠点が発足。QSTが「量子生命」拠点に指定。
4月
QSTの量子生命科学領域を「量子生命・医学部門 量子生命科学研究所」に改組。
9月
学会第3回大会「量子と生命の婚活」(大会長:東京大学・合田圭介教授)を東京大学(オンライン)にて開催。
2022年5月
学会第4回大会「Paint It, Quantum:量子で書き換えろ!生命現象の理解」(大会長:神戸大学・田中成典教授)を神戸大学にて開催。
6月
QST量子生命科学研究所の建屋が竣工予定。
最先端の量子計測技術と動物実験施設等を集約した施設が2023年1月に本格稼働開始の予定。
2017年4月
全国の研究者に呼び掛け量子生命科学研究会を設立(会長:平野俊夫)
第1回学術集会「技と好奇心のコヒーレンス」を東京大学山上会館にて開催。

過去の学術集会

第4回大会
Paint It, Quantum: 量子で書き換えろ!生命現象の理解
大会長 田中成典 神戸大学大学院システム情報学研究科 教授
会期  2022年05月26日~27日
会場  神戸大学百年記念館六甲ホール
第3回大会 量子と生命の婚活
大会長 合田圭介 東京大学大学院理学系研究科教授
会期  2021年9月16日
会場  オンライン
第2回大会 量子による生命フロンティアへの挑戦
大会長 白川昌宏 京都大学大学院工学研究科教授
会期  2020年12月23~24日
会場  オンライン
第1回大会
量子生命科学研究会
第3回学術集会
第二次量子革命 生命の謎に挑む
大会長 平野俊夫 量子科学技術研究開発機構 理事長
会期  2019年05月23日
会場  東京大学弥生講堂一条ホールおよびアネックス
量子生命科学研究会
第2回学術集会
大会長 平野俊夫 量子科学技術研究開発機構 理事長
会期  2018年05月10日
会場  東京大学弥生講堂一条ホール
量子生命科学研究会
第1回学術集会
技と好奇心のコヒーレンス
大会長 平野俊夫 量子科学技術研究開発機構 理事長
会期  2017年04月12日
会場  東京大学山上会館
第1回大会
量子生命科学研究会
第3回学術集会
第二次量子革命 生命の謎に挑む
大会長 平野俊夫 量子科学技術研究開発機構 理事長
会期  2019年05月23日
会場  東京大学弥生講堂一条ホールおよびアネックス

学会賞 歴代受賞者

2022年度 研究奨励賞
鬼頭宏任(近畿大学理工学部)

「生体分子系における電子およびエネルギー移動の理論的解析手法の開発」
光合成タンパク質やDNA系などで見られる電子や励起エネルギーの移動ダイナミクスを理論的に解析するための第一原理的な手法の開発を行い、それらの化学反応を支配する物理的なメカニズムを解明する新たな方法論を構築した。
関連論文
  準備中

2022年度 若手優秀賞
齋藤雄太朗(東京大学大学院工学系研究科)

「量子超偏極核磁気共鳴イメージング分子プローブの開発」
動的核超偏極(DNP)法を用いた核磁気共鳴イメージング(MRI)において、生体内で機能する実用的な分子プローブを新たに設計・開発し、それを用いて重要ながん関連酵素の一つであるアミノペプチダーゼNの生体内活性の検出および腫瘍内マッピングなどに世界で初めて成功した。
関連論文
  • Saito Y, Yatabe H, Tamura I, Kondo Y, Ishida R, Seki T, Hiraga K, Eguchi A, Takakusagi Y, Saito K, Oshima N, Ishikita H, Yamamoto K, Krishna MC, Sando S. Structure-guided design enables development of a hyperpolarized molecular probe for the detection of aminopeptidase N activity in vivo. Sci Adv. 2022 Mar 8: eabj2667.

2021年度 研究奨励賞
五十嵐龍治(量子科学技術研究開発機構)

小型かつ超高感度で温度・磁場・電場など多項目の物理計測に適用可能な量子センサによる生体微小環境計測技術の開発
関連論文
  • Fujisaku T, Tanabe R, Onoda S, Kubota R, Segawa TF, So FT, Ohshima T, Hamachi I, Shirakawa M, Igarashi R. pH Nanosensor Using Electronic Spins in Diamond. ACS Nano. 2019 Oct 22;13(10):11726-11732.
  • Igarashi R, Yoshinari Y, Yokota H, Sugi T, Sugihara F, Ikeda K, Sumiya H, Tsuji S, Mori I, Tochio H, Harada Y, Shirakawa M. Real-time background-free selective imaging of fluorescent nanodiamonds in vivo. Nano Lett. 2012 Nov 14;12(11):5726-32.

2021年度 研究奨励賞
石崎章仁(分子科学研究所)

量子開放系の動的過程を記述するための基礎理論の構築と光励起生体反応系におけるエネルギー輸送および変換過程の解明
関連論文
  • Ishizaki A, Calhoun TR, Schlau-Cohen GS, Fleming GR. Quantum coherence and its interplay with protein environments in photosynthetic electronic energy transfer. Phys Chem Chem Phys. 2010 Jul 21;12(27):7319-37.
  • Ishizaki A, Fleming GR. Theoretical examination of quantum coherence in a photosynthetic system at physiological temperature. Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Oct 13;106(41):17255-60.

2021年度 研究奨励賞
平野優(量子科学技術研究開発機構)

タンパク質の超高分解能結晶構造解析と精密構造情報に基づく量子論的な生体分子反応メカニズムの解明
関連論文
  • Hirano Y, Tsukamoto K, Ariki S, Naka Y, Ueda M, Tamada T. X-ray crystallographic structural studies of α-amylase I from Eisenia fetida. Acta Crystallogr D Struct Biol. 2020 Sep 1;76(Pt 9):834-844. 
  • Hirano Y, Kimura S, Tamada T. High-resolution crystal structures of the solubilized domain of porcine cytochrome b5. Acta Crystallogr D Biol Crystallogr. 2015 Jul;71(Pt 7):1572-81.

2021年度 若手優秀賞
肖廷輝(東京大学大学院理学系研究科)

分子振動を利用した電荷移動に関わる量子生命現象を計測するための金属フリー新規ナノフォトニックデバイスの開発
関連論文
  • Xiao TH, Cheng Z, Luo Z, Isozaki A, Hiramatsu K, Itoh T, Nomura M, Iwamoto S, Goda K. All-dielectric chiral-field-enhanced Raman optical activity. Nat Commun. 2021 May 24;12(1):3062.
  • Chen N*, Xiao TH*, Luo Z, Kitahama Y, Hiramatsu K, Kishimoto N, Itoh T, Cheng Z, Goda K. Porous carbon nanowire array for surface-enhanced Raman spectroscopy. Nat Commun. 2020 Sep 24;11(1):4772. (* contributed equally)

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今後、掲載していく予定です。

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